大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 昭和32年(わ)306号 判決 1958年7月04日

被告人 石井春男 外二名

主文

被告人石井春男、同富弥清及び同榎本治雄を各懲役弐年に処する。

訴訟費用は被告人等の平等負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人石井春男は、昭和三十二年八月十五日夜千葉県千葉郡泉町内小間子一の三十二番地小出一雄方庭先で催された仮設映画の木戸番をしていた者、被告人富弥清及び同榎本治雄は、右映画を観ていた者であるが、被告人等は、右映画を観ていたA(十六年)が、いずれも面識なき被告人富弥清及び同榎本治雄等五、六人の男等にしつこく話しかけられたのを厭がり、映画が終らないうちに場外に立ち去り、続いて大勢の男等が出て行つたのを知り、各自興味を抱いて後を追つたのであるが、

第一、被告人石井春男は、前同月十六日午前零時頃前同町内小間子三の六宮崎安三郎方南方百五十米の地点にあたる松林内において、予ねて顔見知りの布施正弘が強いて姦淫しようとして前記Aを地上に仰向けに倒し、居合わせた五、六人の男が同女の手足等を押えているのを見て劣情を催し、同女を強姦しようと決意し、右布施正弘と意思連絡の上自ら同女のズロースを引張り外し、同女の上に乗つて強いて姦淫し、

第二、被告人富弥清及び同榎本治雄は、前記日時頃前同所において前記強姦の現場を見ているうち劣情を催し、予ねて面識のある野口勇と意思連絡の上前記Aを強姦しようと決意し、それぞれ同女の手足を取つて持ち上げ前記第一記載の現場より南方へ約五十米距つた杉林内に運び地上に寝かせ、被告人榎本治雄と野口勇が同女の手足を押え、先づ被告人富弥清が同女の上に乗り、強いて姦淫しようとしたが、同女の抵抗を受けたため陰茎を同女の陰部に押しつけたのみで立ち上り、被告人榎本治雄に代つて同女の足を押え、次に被告人榎本治雄が同女の上に乗つて強いて姦淫し、続いて被告人富弥清及び同榎本治雄が同女の手足を押え、野口勇が同女の上に乗つて強いて姦淫し

たものである。

(証拠の標目)(略)

検察官は、主位的訴因として「被告人等の判示各強姦の所為に因りAに対し十日間の治療を要する処女膜裂傷外陰後連合部皮下出血浮腫の傷害を負わせたがその軽重を知ることができないものである」との事実を掲げ、右は刑法第百八十一条第百七十七条第二百七条により強姦致傷罪に該当すると主張するが、右第二百七条は、暴行者間に共同加功の意思がない場合でも苟くもそのいずれかの暴行に因り傷害の結果を生ぜしめたものと認められる限り、暴行者全員が傷害の共犯として処罰されることを規定したものであつて、個人責任を基調とする刑法の例外的規定であるのみならず、右規定が刑法総則中にはなく各則傷害罪の章下にあることを考え合わせると、同条は、傷害致死をも含めた傷害罪にのみ適用すべき特例であつて、本件の如く罪質を異にする強姦致傷の場合にまで適用すべきものではないと解する。従つて、被告人等に強姦致傷の刑責を問うことはできないから、主位的訴因を採らず、判示の如く予備的訴因について審判した次第である。

(法令の適用)

被告人等の判示各所為は、それぞれ刑法第百七十七条前段第六十条に該当するから、所定刑期範囲内で被告人石井春男同富弥清及び同榎本治雄を各懲役二年に処し、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用し訴訟費用は被告人等に平等に負担させることにする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 石井謹吾 中川文彦 八木下巽)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例